敷引特約の最近の裁判例
   〜敷引金返還請求訴訟〜
     
●神戸地裁が逆転判決 「敷引」は無効
 2005年7月14日、神戸地裁(村岡泰行裁判長)は、敷引特約は消費者契約法第10条に違反し無効であるとし、賃借人からの敷引金の返還請求を棄却した1審判決を取り消し、賃貸人に対し25万円の全額返還を命じる判決が出ました。
 消費者契約法の観点から(一部)無効とする判決が多数ありましたが、今回、敷引の分析をしているのが特筆に価します。 
●事案と判決の概要
 賃借人は、2003年8月、神戸市中央区に所在するマンションの1室につき、家賃月5万6000円(共益費月6000円)、賃借期間2年との内容で賃借し、単身で、約7カ月間居住していました。
 賃貸借契約には、保証金(敷金)として30万円を差し入れ、解約時には、いわゆる敷引として25万円を控除して、残余の5万円を返還するとの特約(敷引特約)が付けられていました。
 賃借人は、このような敷引特約は消費者契約法10条に違反し無効であるとして、保証金の返還を求める訴えを提起していました。
 判決は、敷引特約が消費者契約法10条に違反するかどうかについて、民法のない義務を負担させものであって、民法の適用による場合に比して、消費者の義務を加重する条項であると判断しました。
 また、信義則に反し消費者の利益を一方的に害するかどうかについては、敷引特約は、「さまざまな要素を有するものが渾然一体となったもの」との立場(いわゆる渾然一体説)に立ち、以下のとおり、各要素について分析をすすめています。
●解約引きの分析
 過去の裁判例(消費者契約法成立以前)では、敷引とは@賃貸借契約成立の謝礼(礼金)A更新料免除という対価B空室損料C賃料を低額にすることの代償D自然損耗の修繕費用、が渾然一体となったものとして、解釈されてきました。
 敷引という慣習にはそれなりの合理性が認められ、それ自体公序良俗に違反することとは到底出来ず、当事者間の合意は最大限尊重されるべきであるとしてきました。
 今回の判決は、各要素の対して、消費者契約法の観点から否定的な解釈を提示しています。
@賃貸借契約成立の謝礼(礼金)
 「賃借人に一方的に負担を負わせるものであり、正当な理由を見出すことが出来ない」
A更新料免除という対価
 「更新料を負担しなければならない正当な理由を見いだすことはできず、しかも、賃借人としては、賃貸借契約書が更新されるか否かにかかわらず、更新料免除の対価として敷引の負担を強いられるのであるから、不合理」
B空室損料
 「賃借人が使用収益しない期間の空室の賃料を支払わなければならない理由はなく、賃貸人が「自らの努力で新たな賃借人を見つけることによって回避すべき問題である」
C賃料を低額にすることの代償
 「賃料の減額の程度が敷引金に早々するものであるかどうかは判然とせず、また賃貸期間の長短にかかわらず、敷引金として一定額を負担することに合理性があるとは思えない」
D自然損耗の修繕費用
 「二重の負担を強いることになる」
 以上の解釈から「賃貸事業者が消費者である賃借人に敷引特約を一方的に押し付けている状況にある」として、信義則に反し消費者の利益を一方的に害するものであると判断し、消費者契約法10条に違反し「無効」であると結論付けました。
●今後の傾向
 現実問題として、関西圏では敷引の慣習は現として存在しています。この判決を受けて賃貸人がどこまで対応できるかは疑問です。なぜなら、敷引特約は、もともと裁判上、合理性が認められていたこと(消費者契約法の成立以前)から、この「慣習」をベースに家賃の算定や原状回復の実務をこなしているからです。もしこの判決を受けて、敷引をなくすよう対応するとすれば、おそらく家賃を上げていく方向になると思われます。
2005年7月 監修:濱 弘幸

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